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色色(1)

 大悪党、とその男が呼ばれるようになったのは今から一年前の事だった。

 何をしたか、というと世界から色を盗んだのだ。もともと軍の大魔術師と言われていた男は怪しげな魔法で世界中から色を抜き去ってしまった。

 どうしてそのようなことをしたのかは、未だわかっていない。その大悪党は色を盗み出した後、姿を消してしまったからだ。

 ともかく、結果として全世界すべてが白黒になった。人々は混乱した。

 この世界では色は重要な役割を担っていた。就く職や、家の階級によって着る服の色が決まっていたのだ。
 色がなければ、簡単にそれを見分ける術がないではないか。

 ある者は自分より階級が上の者をそうとは気が付けず無視をし、罰則を食らった。

 ある者は仕事仲間と勘違いした相手と延々仕事の話をしてしまい、仕事の情報を取られてしまった。

 もちろん、役職がらみでなくても色がなくては不便だ。森に迷い込んだものがそれに気が付かずに進み続け、最終的に餓死してしまった、という悲劇も起こった。

 大悪党を捕え、色を取り戻す。そのために投入された兵士は数知れない。しかしその包囲網をすり抜けているのか、一年たった今も全く足取りはつかめていない。

 その大悪党捕獲計画と同時に進められているのが色を作り出す魔法の開発だ。

 奪われた色を取り戻すのではなく、作り出してしまおうという計画である。だが色を作り出す魔法など誰も行ったことがなく、その開発は困難を極めた。

 しかし、やっと研究の成果が実った。赤色が作り出されたのだ。人々は喜んだが、一部から不満の声が上がった。それは、上流階級であった。

 赤色は地位の低い者が纏う色だったのだ。

 自分たちより先に『色持ち』になるのは間違っている。その一部の人々のわがままは聞き入れられた。

 上流階級の色、紫が開発されるまで、色のついた衣服を着用することが禁じられたのだ。

 それでも折角開発された赤だ。そのままにしておくのはもったいない。踏ん反り返る政治家の足元にかじりつき、研究者がお願いをすると、それでは、と許可が出た。

 そうして一般の下っ端兵士が各地に駆り出されることとなった。衣服以外のすべての「赤」に色を与える、という使命を帯びて。

 そんな下っ端兵士の一人、シンヤはまさしくその任務をこなすために家を出ようとしていた。

「お弁当持ったー?」
「あー…忘れてたわ」
「もう、しっかりしなさい!ほら、寝癖ついてるし」
「直してる時間ないし。いってくる」
「しょうがないわね、いってらっしゃい!」
「ういーす」

 軍から支給されているコートを羽織り、帽子の中に無理やり寝癖を閉じ込めるとシンヤは家を出た。ちらりと時計を見ると待ち合わせの時間ぎりぎりである。
間にあわねーや…まぁいいか、と早々にあきらめるシンヤ。

 そしてぼんやりと急ぐ様子もなく歩く。モノクロの世界ですれ違う人々はシンヤに気が付くと様々に声を掛けてくる。

「おはようシンちゃん!」
「おーい、シン坊そんなのんびりしてていいのか?」
「相変わらず軍服にあってねーな!」

 そのすべてにひらひらと手を振って返す。シンヤが住んでいる地区はいわゆる『低級』のため本来ならば『目上』の軍人に対してこのように振る舞えば罰則を受ける。

 しかし幼いころからここに住んでいるシンヤには皆遠慮がなく、シンヤ自身も全く気にしてはいないのだ。

「あ、シンヤだ」
 仕事仲間の声に、シンヤはそちらを向いた。
「ソルト。はよ」
「おっはよーん!ってシンヤがここにいるってことは二人で遅刻かぁ。イサクくんちょー怒ってるかも」

 やばくなーい?と言いつつもソルトも急ぐ様子はなさそうだ。

 任務は基本的にグループで行われている。少なくて二人、多くて五人で班を作り、依頼された場所に行くのだ。シンヤ、ソルト、そしてイサクは一つの班で、今日は朝8時に待ち合わせをして任務に出るはずだったのだが…。

 二人とも遅刻だ。

「あ、イサクくんはっけーん」
「はっけーん、じゃないだろう!」

 待ち合わせ場所についた瞬間、ソルトの頭の上にげんこつが落ちる。痛がるソルトを無視して、イサクは歩き出した。

「ちょ、先輩敬えー、ってかなんで俺だけ」
「大切な任務に遅刻する奴は敬えない。あ、シンヤさんは別ですけど」

 ひどーい、と声を上げるソルトは実はこの中で一番先輩。二十五歳なのだ。その下がシンヤ二十三歳。イサクは二十歳と一番若い、がどう考えても一番しっかりしているように見える。

「それに遅刻ったってちょっとじゃん」
「三十分がちょっとか。生きている時間がどうやら違うらしいな」

 ハン、と鼻で笑いながら言うイサク。かわいくない!というソルトの言葉にも馬鹿にしたような笑みで応える。

 その様子を朝から二人とも元気だなぁ、などと思いながら眺めているシンヤ。

「今日は西区の…16番?郊外だねぇ」

 一通り言い合って満足したのか、ソルトが仕事の話を持ち出す。

この世界は大都市『エンピツ』を中心とし、北区、南区、西区、東区の四つに大きく分類される。さらにそれぞれの区が番号で区分されている。西区、北区は完全に『エンピツ』の統治下にあるが他2区の一部はそうではない。それは世界が色を失う前からで、『エンピツ』のお偉いさんたちは開発された色を統治下の区には戻すが、そうではない地域には情報提供すらしていない。

 南区、東区の一部地域は自力で色の開発を行っているが、腕の良い魔法使いは『エンピツ』に取られてしまっているため、未だ成果は出ていないという。

 そういうわけで今日この班が向かうのも西区なのである。

「遠いなぁ。歩いていくのたるいし、箒は持ってきてないし。シンヤぁ、何とかしてくんない?」
「えー…めんどい」
「その無駄に有り余ってる魔力使ってよー。今日奢るから」
「んー…デザートあり?」
「あり!」
「…よっしゃ」

 年長組がぼそぼそと話しているのを気にせず前を歩いていたイサクだが、肩にぽん、と手を置かれて足を止める。

「どうしたんですか?」
「ショートカットするから、ちょっと待って」

 シンヤに対しては敬語のイサクは言うこともちゃんと聞く。

 シンヤは杖を取り出すと宙に長方形を描き出した。ピカリ、と光るとそれが扉となる。

「西区の16番だっけか」

 呟いて扉に手を掛ける。そして開けて中を確認した。

「できた―?」
「ああ、できてるみたい」

 その言葉を聞いてやったーとソルトが扉の中に飛び込んだ。イサクは感心して扉を眺めていたが、シンヤに背中を押され、中に入る。

 最後にシンヤが扉をくぐると、そこは目的地だった。最初からこうすればよかった、と内心思いながら扉を閉め、消してしまう。着いた、着いたと無邪気に喜ぶソルトをぼんやりと眺めていると、同じように自分もイサクから見られていることに気が付いた。

「なに?」
「あ、いえ。なんでもないです」

 慌てたように首を振るイサクにそうか、と答えてまだはしゃいでいるソルトの頭をはたいた。

「めんどいけど、仕事」
「そうだなー。お仕事しようか」
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
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