コンテントヘッダー

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
コンテントヘッダー

色色(3)

「おーこれは派手にやったね。軍人さん同士、喧嘩かい?」
「まさか」

 その医師は、しっかりとした体を無理やり白衣に詰め込み、豪快に笑った。

「話に夢中になってたら、魔法制御が疎かになって…」

 恥ずかしげにソルトが言う。

「そうかそうか。しかし大怪我ではなくて良かったな。これだったらすぐに治る。安心せい、な」

 武骨な手でぐりぐりと頭を撫でられて、ソルトは顔をしかめる。ちょっと痛い。

 シンヤはその医者をじっと見つめていた。この雰囲気、どこかで知っている気がする。

 誰だっけな、と思うが額の傷がずきずきと痛み、考えの邪魔をする。そして、生来の面倒くさがりが顔を出し、まぁいいか、と考えるのをやめてしまった。

「これでよし、と。あとはサービスで魔法をちょちょい、と」

 そう言いながら医者がシンヤの傷部分に杖をあてると、小さな光が灯り、ピリリとした痛みが走った。

「ちょっと…痛い」
「それがいいんだ」

 ガハハ、と笑う医者に、シンヤは思い出したことがあり、声を上げそうになった。

 こいつは、大悪党…ダウトだ。

 実はシンヤとダウトは面識がある。大悪党と呼ばれる前、ダウトは軍に所属していたからだ。その強大な魔力を駆使し、軍部ではかなり上位に位置していた男。しかし楽しいことが大好きで、自分の好みの事件、とあればそれが下っ端の仕事であろうと首を突っ込み、引っ掻き回していく。

 そのダウト好みの事件を担当していたことがあるシンヤは、間近でダウトの魔力を見せつけられていた。個々の魔力には特徴がある。そのため、この医者が魔法を使ったときに、相手がダウトであると気づいたのだった。

「おっさん、さ」
「おいおい、医者におっさんはひどいぞ。確かに医者には見えんかもしれんがな」

 ああ、面倒くさい。男が大悪党であることを指摘しようと思ったが、否定されたり、説明を求めたりされるのが面倒くさい。さらにもし、戦闘になったら究極に面倒だ。

 シンヤはそう思い、黙っていることに決めた。

「そうですね。ありがとうございました、先生」

 そう言って立ち上がり、その場を去ろうとシンヤがしたとき、ダウトがその腕をつかみ、制止した。

「久しぶりに会ったのに、連れないなぁ、シンヤちゃん」

 語尾にハートでも付きそうな言い方に、顔をしかめるシンヤ。

一体何のことだとソルトとイサクは首をかしげる。

「人が穏便にことを済まそうってのに、邪魔しないでくれます?」
「指摘するのが面倒だっただけだろう?相変わらずクールなのな。おっちゃんビビッとしびれちゃった」
「気色悪ぃ」
「安心したって言ってるんだよ。シンヤちゃんまであの軍部に毒されて、権力主義の下種野郎になってたら、色を盗むどころじゃ済まさない、と思ってたからさ」

 色を盗む、という言葉に反応してイサクとソルトが目を見開く。

「ひょっとして、大悪党…」
「その呼び方好きじゃないんだよなぁ。おっちゃんそこまで悪いことしてないしー」

 その言葉に確信した二人が、戦闘に備えて構える。それを見たダウトは野蛮で嫌になっちゃうねーとため息を吐いた。

 シンヤはああ、面倒なことになってしまったと嘆いていた。なぜダウトが正体をばらしたのか、とかこれからどうなるのか、とかはどうでもよかった。とにかく面倒だった。

「シンヤちゃんもそんな面倒臭そうな顔しないで再会を喜んでくれよ。さすがにおっちゃん傷つくぞ」

 はぁ、とわざとらしいため息を大きくつくと、シンヤはダウトを睨みつけた。

「勝手にしろ」
「シンヤさん…この人とは、お知り合いですか?」

 二人の様子を警戒しながら見守っていたイサクが口を挟む。

「知り合いも知り合い!恋人だからね」
「ふざけんな」

 ダウトの言葉は一蹴される。

「えっと…えー…もう!訳が分からないよ!」

 ソルトが喚くのも無理はない。

「落ち着け…とりあえず二人とも、警戒を解けよ。このおっさんに攻撃の意思はない」

 シンヤに言われて、二人は恐る恐る攻撃態勢をやめた。ニヤニヤとその様子をダウトは見ている。

「で、座れ」

 そうして全員が椅子に座り、落ち着いたところでシンヤは口を開いた。

「このおっさんは元軍人だろ?それで、下っ端の仕事を引っ掻き回すのが大好きだ。俺はその、被害者だよ」

 その言い方はひどい!と文句を言うダウトをシンヤはふん、と鼻で笑って流す。

「ずいぶん親しげですけど…その一回の仕事でそこまで親しくなります?」

 訝しげにイサクが尋ねると、親しげだって!と喜ぶダウト、ため息を吐くシンヤ。

「なぜかこいつがその後もまとわりついてきたんだ。事件起こすまで」

 思い出してシンヤは遠い目をする。一応上司だったため、無碍にはできず、同僚からいちいちなんであの人と親しいのかと質問攻めにあい…本当に面倒くさかった。

 正直、大悪党となり、軍部からいなくなったと聞いたときは、ホッとしたのだが。

「だって君ら知らないと思うけど、シンヤちゃんって俺と同じくらい魔力持ってるんだよ?それなのに、下っ端って立場に甘んじてる…面白い。こんなに面白い人をおれが放っておくわけないじゃん」

 イサクとソルトは驚いた。まさかシンヤがそんなに強い魔術師だとは思っていなかったから。

「大悪党と並ぶほどの…どうして下っ端にいるんです?」
「そう、それを知りたくって付きまとってたわけ。で、やっと教えてくれた理由が面倒くさいから、だ。笑うだろう?シンヤちゃん、出世して責任ある立場になるのが面倒くさくって、能力を隠してるんだと」
「そんな理由で!あー…でもシンヤらしいかもね」

 前半は驚いて、しかし後半は呆れたようにソルトが言う。シンヤは悪びれもせず、当然という顔で何も言わなかった。

「今回だって、色の配合、とかちまちま政府はやってるけど、シンヤちゃんだったら一発で戻せるでしょ。それをしないのは、面倒だから?やっぱり」

 尋ねられてシンヤはうなずいた。大悪党は大笑い。

「でも、今回の事で身に染みた。色がないと不便だ」

 先ほど石塀にぶつけた額をさすりながらシンヤが言う。

「不便、ねぇ。確かにそうかもね。シンヤちゃんが戻したいなら、戻していいよ。俺はただ、世界から色を奪ったら面白そうだなぁと思ってやっただけだし」

「え…色を奪った理由ってそれ?政府に反旗を翻したとかそういうのじゃなくて?」
「そういうつまらないことは、正義感にあふれた若者がすればいいじゃん。おっちゃんは面白ければどうなったっていいのさ。ま、今のくそ政府がつぶれてくれた方が面白いッちゃあ面白いから、今回の事でいろいろ『気づいた』若者がいるってのはいいことだとは思うけどね」

 ニヤニヤと笑いながらダウトは言う。

「あくまでも貴様は、自分の『楽しみ』の為に動いたということか」

 イサクはダウトを睨みつけた。

「もちろん」

 その返事を聞いてイサクはこぶしをぐっと握り、今にもダウトに殴りかかりそうであったが、何とか気持ちを静めると、静かに言った。

「自分の為に、世界の秩序を乱す者は許せない…。しかし、貴様のおかけで、気が付けたこともある」
「へぇ。実直でお堅い兵士さん、と思ってたけど、意外考えに柔軟性がある。こりゃ将来が楽しみな一人だねぇ」
「うわぁ、ダウトに目を付けられたな。かわいそうに」

 憐みの目でシンヤはイサクを見る。勘弁してください!とイサクは椅子の上で身を縮めた。

 その様子を見て豪快に笑い声を上げた後、ダウトは少し声を落として、シンヤに尋ねた。

「それで、どうする気?俺は色を返すつもりはないよ。まだ今の状況に飽きてないし」

 シンヤは少し迷っているようだった。

「色がないのは不便だ。でも、色があっても面倒だ」
「え?色があると面倒って?」

 何がそんなに面倒なのだろうかとソルトが疑問の声を上げる。シンヤは説明するのも面倒くさい、と思いつつ、仕方なく口を開いた。

「階級別の色を覚えなくちゃいけないだろう」
「それくらい覚えようよ!」
「それに、色があると性別で色を分けるじゃないか。それがまた面倒臭い」
「それのどこが面倒?」

 確かに『男の色』『女の色』は存在している。軍服の色も、数少ない女性物は、男性物よりも派手で、明るい。

 しかし、別段それで面倒なことは起きないはずだが、とソルトは首をひねる。

「物言いたげな目で見られたり、実際『なんで女物着てるんだ?』って聞かれたり…答えるのが面倒で相当ストレスたまる」

 それはシンヤならではの悩みかもしれない、とソルトは思った。シンヤは性別は女性、ということになっているが、性格や言動、見た目が『男らしい』ため周りからは男性だと思われることが多い。その結果、女性物を着ていると指摘されてしまうのだろう。

「大体女であるのが面倒で軍にまで入ったのにどうして、また面倒なことになる…。本当に厄介」

 シンヤは絶対に嫌だった。化粧をして外に出たり、恋愛ごとで他人の為に時間を使ったり。そういうのはすべて『面倒』だった。だからシンヤは『ほぼ男』になろうと軍に入ったのだった。

「本当に、徹底した面倒くさがりだよねー。むしろ俺は女の子が着るようなピラピラの服着たいのにさ。あの派手な軍服も好きで、着られてずるいって思ってたんだけどなぁ」

「交換できたらよかったな…あ」

 シンヤが言葉の途中で停止する。その様子を見て、どうした?と騒ぐイサクとソルトに対し、何か面白いことが起きそうな予感がして、にやつくダウト。


「そうか…なにもすべて元に戻す必要は、ないわけか」
スポンサーサイト

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

コンテントヘッダー

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
読書、ギターを弾くのが趣味です。

よろしくお願いします。

最近の記事
最近のトラックバック
最近のコメント
月別アーカイブ
カテゴリー
FC2カウンター
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。