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忘れない 1

「僕の兄が亡くなったのは、今から八年前の事です」

 穏やかな口調で、目の前に座る青年が言う。私は相槌を打つわけでもなく、ただただ話を聞いた。それが、彼が求めていたことだったから。

 私はあるオカルト雑誌のライターだ。たぶん、誰もその名前を知らないような、低レベルな雑誌の。昔から、不思議なことに興味があって、この仕事を選んだ。本を読み、空想に耽る幼少期を過ごしたからかもしれない。

 毎日ネタを探し、取材を行って原稿を書く。それが私の日常だ。しかしこの日常は一般の人にとっては非日常の出来事がよく起こる。

 今回もそうであった。

「廃墟に悪霊が棲みついているらしい」

 その取材に行くように上司から命令され、私はその場所へと向かった。しかし、その廃墟、とは島にあるらしく、もう人の住まなくなったその島に行くための船などはないという。

 どうしようか、と思っていると、地元の人が、明日その島に行く人がいるらしい、と教えてくれた。港を張って、その人たちを待っていると、二人の男性が姿を現した。

 一人はまだ幼さの残る青年(今回のお話の主人公だ)だった。名前を加藤陽太という。もう一人は厳ついおじさんだった。佐田玄、と名乗った。二人は戸惑いつつも、私の願いを聞き入れてくれた。

 つまり、私はこの二人に同行することを許されたのだ。

 小さな漁船に乗り、最初にギブアップ宣言をしたのは、意外なことに「漁師」といった様子の佐田さんだった。船酔いのせいで顔色を悪くし、床にデンと寝転がっていた。

加藤君は、平気らしく、どこか遠くの方をぼうっと見ていた。ひょっとしたらまだ見えぬ島を見ていたのかもしれない。私はライターでもないのに島に向かう彼らの事情が気になり、この青年に尋ねることにした。

「どうしてあの島に?」
「やりたいことがあって…佐田さんはそれに付き合ってくれているんです」

そのやりたいこととはなんなのだろうか。

ライターとして取材を申し込まないわけにはいかなかった。何か、特殊な話が聞けるに違いない。そうオカルト雑誌のライターとしての勘が告げていた。

「取材、ですか。僕らの事の?…いいですよ」

 嫌がり、最悪船から降ろされてしまうかもしれない、と思っていたが、どうやらそれは杞憂で終わったらしい。彼はあっさり首を縦に振ってくれた。佐田さんにも申し込んでみたが、その坊主が話すことで十分だろう、と青い顔で言われてしまった。

 そして、大きく揺れる船の中でまず語られた言葉が、冒頭の言葉であったのだった。





 彼の話を聞き終えた今も、その不思議さと、悲しさの余韻に浸っている。私の拙い文章では、上手くそれが伝えられないかもしれない。しかしこの話をしてくれた加藤君の為に、そして彼のお兄さんや、「あの時」の人達の為に、書き記そう。


 残して、伝えて、繋げよう。


文化祭号に載せたもの。やや長め。
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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

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紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
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