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忘れない5

 そう言うと、加藤君はお兄さんが亡くなってから初めて大声で泣いたそうだ。佐田さんと加藤君以外、誰もいなくなったあの島に、その声はよくよく響いたという。

 その後、加藤君と佐田さんはどう帰ればよいのか困ってしまったが、やはり来た通りの道を帰るのが良いだろうと、名残惜しくなりながらも、それぞれがその島ではじめにいた部屋に帰ったそうだ。

 加藤君が部屋の『扉』を恐る恐る開けると、そこは自分の部屋につながっていたという。『扉』を閉めれば、もう島に行くことはできないだろう。本能的にそう感じ、引き返したくもなったが、加藤君は我慢して、『扉』を閉めた。加藤君が離れた瞬間、その『扉』はぼんやりとかすみ、消えて行ってしまったそうだ。

「翌日、両親はぬいぐるみを持たず部屋を出てきた僕にひどく驚いていました」

 その時の様子を思い出してか、加藤君はくすくすと笑いながら言った。その当時の加藤君は両親の顔を見た瞬間、大粒の涙を流したそうだけれど。

 加藤君は両親に一晩の不思議な体験を話すことはなかったという。死んだ人には会えないと、わかっている両親に会ったなどと言って動揺させたくなかったそうだ。

 事実を伝えずに、佐田さんの事を話すのは難しかったそうだが、何とかそこをクリアして、加藤君は佐田さんの情報を両親から聞き出した。同じように佐田さんが加藤君の事を調べ、連絡してきたのは、あの夜から一週間後だったそうだ。それ以来、二人は交流を深め、お互いの現状報告をしたり、時に過去の人を懐かしんで泣いたり怒ったりした。
 
そんな二人だったが、あの廃墟に行くのは、今回が初めてだそうだ。ちょうど、お兄さんの命日なのだが、加藤君にとって、今年は特別だった。だから、島に行くのだという。

 その理由を聞いても、考えればわかるだろうと教えてはもらえなかった。佐田さんいわく、ちょっとは頭を使え、だそうだ。

 悔しいがわからない。もう少しで島に着く。島に着いたら、教えてもらうことにしよう。


***

 不思議な光景だった。誰もいない廃墟に、佇む歳の離れた二人。二人とも神妙な顔つきで、家の一軒一軒を覗き込み、丁寧に町を歩いて行った。私は時折写真を撮りながら、二人の後をできるだけ音をたてないようについて行った。

 やがて、私たちは海に辿りついた。おそらく、二人が大切な人を失った海だ。

「あー、花とか用意してねぇ」
「そういえば…すっかり忘れてました」

 二人は、顔を見合わせ、苦笑した。どういうことか、船の中にいた時と同じ二人なのに、どこか違う印象を受けた。

 ぼんやりと、全員が海を眺める時間がしばらく続いた。誰も、何も言うことなく、自然と海に目を向けていた。

 二人の人間を、かつて飲み込んだとは思えないくらい海は穏やかで、美しかった。

 やがて、加藤君が口を開いた。

「今年で、十八歳になりました。兄さんに、追いついたよ」

 言われて、ハッとした。今年が加藤君にとって特別だという意味がここでやっとわかったのだった。

「まるで、兄さんを置いて行ってしまっている気持ち。ちょっと複雑だよ、正直」

 少し高い波が、加藤君の言葉を飲み込むように、大きな音を立てて消えていった。

「怖い気もするし、不思議な感じもしてる。あの時、僕にとって兄さんは大人だったけど、今の僕はまだまだ子供。だからきっと、兄さんも子供だったんだね」

 キュッと加藤君の拳が握られているのが目に入って、その瞬間何故だが目頭が熱くなり、私は涙を流していた。部外者である私が泣くなんて申し訳なくて、歯を食いしばって我慢しようとしたのに、止まらなくなってしまった。

「兄さん、ありがとう」

 ありがとう、ありがとうと何度も加藤君はつぶやいていた。その様子を見ていた佐田さんが、私にそっと教えてくれた。

「兄さん死んでから、ごめんなさいしか伝えてなかったってこの間気が付いたってんで、礼を言いに来たんだよ。兄さんの為というより自分の為、なんだがな」

 私はなるほど、とうなずいた。

「満足したか?」

「はい。ぼくは、満足です」

 こうして、私たちは島を後にしたのだった。

 加藤君は行きよりもすっきりとした表情をしていた。きっと言いたいことを伝え終わり、満足したからだろう。佐田さんもまた、紗枝さんに心の中で伝えたことがあったのだろうか。どことなく雰囲気が柔らかくなっていた。

 この取材で私はとても貴重なお話を聞くことができたと思う。もちろん、オカルト雑誌に載せられるような過激な話ではないから、原稿としては没だろう。この原稿は日の目を見ないことと思う。けれど、私は少しでも多くの人に加藤君や佐田さんの話を届けたいと思っている。

 さあ、あとは家に帰り、原稿を見直すだけだ。今日のところはここで筆をおきたいと思う。

***
 
 驚くべきことが起きた。私は今、必死で興奮を抑え、何とか騒がないようにしている。今は夜中だ。漁港の近くの民宿で、携帯電話の明かりを頼りに書いている。

 加藤君と佐田さんの部屋は隣だけれど、このことを話すべきか、迷った。迷って迷って迷った結果、彼らにはこのことは伝えないでおこう、と決めた。そう、たぶんそれが、正解なのだと思う。

 先ほどから支離滅裂になってしまっているのは自覚している。家に帰ってから文章を直すのが大変そうだ。だけど書かずにはいられない。ぐちゃぐちゃになってもいい。とにかく今、あったことを書くのが重要だ。できるだけ落ち着いて、冷静に。そう言い聞かせながら書く。

 宿に落ち着いてすぐ、私はものすごい眠気に襲われて、眠った。そして、ふと目を覚ましたのだ。そのあとなぜか寝付けなくて、書いた原稿を見直そうと、取材ノートを広げた。

 違和感。

 何かがおかしいと思い、ノートをよく見ると、丁寧に処理はしてあるものの、切り取った形跡がある。無論私はそのようなことはしていない。

 誰が、どうして?

 そう思い、何かヒントがないかとノートを細かく見ていくと、破かれたページの下のページがでこぼこしているのが分かった。

 私は推理小説なんかでよく見ることを真似てみようと、鉛筆でそのでこぼこ部分を擦ってみた。

 すると、小説通り、文字が浮かび上がってきたのだ。

 それは、メッセージだった。


 加藤君に充てられたメッセージだった。

 一言。



 『君の成長を、心から嬉しく思う』



 そう、書いてあった。


 その紙をひっつかみ、飛び出しかけた。しかし、私は、何故そのページが破り取られていたのか、ふと疑問に思い、足を止めた。



 そしてそこに、お兄さんの葛藤を見た。


 伝えないことが、正解なのだろう。きっと。今あらためて思う。

 さぁ、明日は早くに出版社に戻らなければならない。今日はもう寝よう。

加藤君、佐田さん、おにいさん。彼らのお話は、これで本当に、おしまい。          《END》


うっかり更新を忘れてげふんげふん。
一気に最後までアップです。えへへ。

しかし番外編が続きます。お兄さん視点。もう少しだけ、このお話におつきあいください!
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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

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探偵GODです

はじめまして探偵GODです。
これは勉強になります。

No title

探偵GOD様

初めまして、こんばんは。
とてもうれしいお言葉をありがとうございます。
そういっていただけると、書いてよかったなと思えました。
励みになるコメントをありがとうございました。
プロフィール

紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
読書、ギターを弾くのが趣味です。

よろしくお願いします。

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