コンテントヘッダー

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
コンテントヘッダー

ソラマチ1

 自分が動けば空気も動く。

 自分が歩けば足音もする。

 自分が話せば声もする。

 自分が、自分が、自分が。

 そうして私は一人になった。




「佐智、帰ろうぞ」

「おうおう、待たれよ」

 最近私と友人の佐智の間で流行っている時代劇言葉。みんなに広めようとしたけれど、なぜだかみんな嫌がるの。

「お待たせー。さて、今日はどの甘味をいただきに参ろうか」

 教科書をかばんに押し込み、佐智がこちらにやってくる。私たちは自他ともに認める甘いもの好き。学校から家にまっすぐ帰ることなんてしたことがない。お饅頭屋さんに喫茶店。最近できたおしゃれな洋菓子屋。こんなにもステキで魅力的なお店が連なっている帰り道。よらないで帰るなんてもったいないでしょう?

「わらわは喫茶店な気分じゃ」

「おお、ではそのように」

 二人でにやにや笑いながら歩く。この時間、とても好き。

「綾香さぁ、明日のテスト準備平気なわけ?」

 喫茶店までは少し遠い。あんまり学校に近かったら、先生につかまってしまうもの。佐智が時代劇言葉をやめたから、私もやめて話す。

「勿論平気。佐智は?」

「助けて」

「任せて」

 佐智は勉強が苦手。でも、運動がすごく得意でかっこいい。私はそんな佐智を尊敬している。だって私は運動、ものすごく苦手なんだもの。そのかわり勉強は頑張っているんだけどね。

「綾香は頼もしいなぁ。大好き」

 えへへって笑う佐智はかわいい。私もつられてえへへって笑う。

 そうしてる間に喫茶店について、私と佐智は中に入った。

「いらっしゃいませ」

 喫茶店の店員さんはかっこいい男の子。でもちょっと苦手。だからいつも佐智の後ろに隠れてしまう。

「窓際の席、どうですか?」

「じゃあ、そこで。いいよね、綾香」

 私の様子に苦笑いしながら佐智は聞いてくる。私は何度もうなずくの。

 店員さんはそれを見ると、いつも私たちを案内してくれる。私が苦手って思っているの、知っているようで、私をあまり見ないようにしてくれる。

 きっと優しい人なのでしょう。でも、まだ慣れないのです。

「綾香、何にする?」

「ケーキセット。ダージリンとイチゴのショートケーキ」

「いいね。私もケーキセットにしよう。紅茶は…セイロンかなぁ。んで、ケーキはモンブラン」

 もう食べているのを想像しているのか、佐智はにこにこしている。そういうところ、本当にかわいいよね。

「すみません」

 佐智が店員さんを呼んだから、私はさっとうつむいた。

「ケーキセット二つ。一つはダージリンとイチゴのショートケーキもう一つが」

「セイロンとモンブラン?」

 店員さんが注文を聞かないのに答えるから、私も佐智もびっくりしちゃった。

「そんなに大きい声でした?」

「いえ、いつもこちらの方がダージリンとイチゴのショートケーキの時は、セイロンとモンブランを頼まれているので…すみません。少し驚かせてみたくなってしまって。仲、いいんですね」

 にこにこと店員さんが言うものだから、私は恥ずかしくなって赤くなった。佐智も少し頬を赤くして、それでも微笑んだの。

「はい」

「いいですね…失礼します」

 頭を一つさげて、店員さんは行ってしまった。

「綾香が変にもじもじするから覚えられてしまったんだ」

「私のせいじゃないよー」

「僕は綾香のせいだと思う」

 佐智の雰囲気ががらりと変わる。ああ、よそ行きの顔をやめたんだ。佐智は普段は自分のことを「僕」っていう。たまに「俺」ともいうけれど、それはめったに使わない。

 佐智は二つの顔をうまく使い分けて生きている。学校や公的な場では「私」。家や私の前では「僕」。どちらの佐智も好きだけど、よそ行きの顔を捨てた佐智は少しいじわる。

「そんないじわる言うなら、勉強教えてあげないんだから」

「綾香姫、頼みます」

 途端に態度が一変する。全くとつぶやいて私は教科書を取り出した。

「綾香はなんだかんだ僕に甘い」

「だって佐智が補習になったら一緒に帰れないじゃない」

「僕以外にも友人を作るべきだ」

「私は佐智がいればいいの」

 私が怒っていうと佐智は「ふぅん」とつまらなそうに返事をした。そういうときの佐智は、絶対に納得していない。

「いらっしゃいませ」

 カランコロンという音の後、新しくお客さんが入ってきた。私たちと同じ制服。よおく見れば同じクラスの。

「染谷君じゃないか」

 染谷冬治という、クラスメート。私以上に友人のいない、変わった子。

「どうだ、綾香。染谷君と友人になればいいじゃないか」

「いやよ。なんでそんなことしなきゃいけないの」

「同じ喫茶店に足を踏み入れた縁さ。きっとほかのクラスメートよりは縁があるんだろうよ」

 染谷君に聞こえないように、こそこそと言い合う。絶対、佐智は面白がっているだけなんだわ。

「佐智が嫌ならどれ、僕が声でもかけてこようかな」

「そ、それもいやよ。今は私との時間でしょう」

「僕が染谷君に取られるのが嫌なのか」

「とられるとか…そういう問題じゃないのよ」

「ふふ、図星だな」

 立ち上がりかけていた佐智が座る。私はホッとした。佐智の言うとおり図星だった。学校では佐智はほかの友人とも話すし遊ぶ。今のこの時間だけが私が佐智を独占できるの。それをわかっていていうのだから。

「本当に佐智はいじわる」

「そうだよ、僕はいじわるさ」

「もう!」

 私が怒っているところに店員さんがケーキを運んできた。おいしそうなケーキ。私の怒りは一気に冷める。

「いただきます」

 佐智がきちんと手を合わせてから食べ始めたから、私も慌ててフォークを置いて手を合わせた。

「おいしー!」

「ああ、おいしいな」

 じんわりと広がる甘味。そしてイチゴの甘酸っぱさが絶妙。甘くなりすぎた口の中をダージリンで満たして、またケーキを頬張る。

「綾香は幸せそうに食べるね」

「佐智も負けてないわ」

「そお?」

「そお」

「そっか」

 何がうれしいのか。佐智はさらににこにこしながらケーキを食べて、そのうち食べつくしてしまった。

「食べるのはやい」

「知ってる。綾香は遅い」

「知ってるわ」

 他愛のない会話。でも、私と佐智しかできない。この空間が好き。

「綾香が食べている間、僕はいつも暇だ」

「謝らないわ」

「謝ってほしいわけじゃない…ただ」

 嫌な予感がしたの。ものすごく嫌な予感。それは的中して、佐智が大きな声で染谷君を呼んだ。

「染谷君。こっちきて私に勉強を教えてくれない?」

 呼ばれた染谷君はまさか知り合いがいるだなんて思いもしなかったのか、すごく驚いた様子で私たちを見た。そして、恐る恐るといった様子で口を開いたの。

「川合さんに…遠藤さん?」

「お。よくぞ覚えてくれてたね」

「え…クラスメート、だよね」

「ハハッそうなんだけど。僕はともかく、綾香は影が薄いからねぇ」

「ひ、ひどいわそれは!」

「『僕』…?」

「あ」

 しまった、という様子で佐智が口を押える。もう遅い。調子に乗って話すからよ、と心の中で舌を出す。散々言ってくれたから、フォローなんてしないんだから。

「まぁいいや。染谷君は人にいうような人じゃないだろう。こっちが素だから」

「そ、そうなんだ」

「うん。あ、こっちおいでよ。ちょいと話そうじゃないか」

「え、悪いよ」

「両手に花のチャンスを逃すものじゃあないよ」

「自分で花って言った」

「花だろう?」

 染谷君がふっと噴き出す。どこがそんなにおもしろかったのか、声を出して笑い始めた。こんな染谷君、初めて見た。私と佐智は顔を見合わせて、首をかしげる。

「染谷君って笑うんだね」

「え」

「ちょっと、失礼でしょう?」

「だって初めて見た。笑うとかわいい」

「か、かわいいって…」

「本当だよ。染谷君はかわいい」

 佐智が何度も言うものだから、照れてしまったのか怒ったのか、染谷君は真っ赤になった。それを見た佐智が大きな声で笑うものだから、店員さんも何事かとやってきてしまった。

「この子学校の友人なんです。席くっつけていいですか?」

「もちろん」

 ちゃっかり佐智は染谷君の座る席を作ってしまった。仕方なく染谷君がそこに座る。

「友人…って」

「え、違うの?」

「クラスメートでいいんじゃ」

「僕らと友人は不満?」

「不満なわけないだろう!」

 突然の大声。私たちは驚いて染谷君を見た。するとどんどん染谷君は真っ赤になっていった。

「じゃ、友人」

「…う、うん」

 こうして私に二人目の友人ができた。私、何もしてないのに。
スポンサーサイト

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

コンテントヘッダー

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
読書、ギターを弾くのが趣味です。

よろしくお願いします。

最近の記事
最近のトラックバック
最近のコメント
月別アーカイブ
カテゴリー
FC2カウンター
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。