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ソラマチ2

 僕の声が小さいから。

 誰にも届くことがなかった。

 大きな声を出す練習は、一人でするにはむなし過ぎた。

 でも。

 むなしくったって。

 諦めるべきではなかったのでしょう。




 おはようの挨拶が交わされる中、僕は無言で席に着いた。いつものことで、慣れたもの。誰も気にしやしないんだ。

 でも今日は何だかおかしい。どこかから、視線を感じるなぁと、ぐるりあたりを見渡せば、昨日喫茶店であった女子と目が合う。

 遠藤綾香。

 僕と似ている女の子。いつもうつむきがちで、表情を眼鏡の奥に隠している。あ、目をそらされた。

 彼女の友人は僕を「友人」と言ってくれたけれど、遠藤さんは違うのだろう。それは、仕方のないコト。

 お、川合さんがやってきた。川合さんはクラスのムードメーカーで、教室に入ってきただけで何だか空気が明るくなる。彼女の秘密を知ってしまったのは昨日のことだけれど、みんなの知らない顔を知っているというのは、何だか気分がいい。

 これは、優越感というのでしょう。

「綾香―!テスト助けてー!」

「はいはい」

 川合さんと遠藤さん。二人が仲良くなった時は、何だかクラスがイヤな雰囲気だった。ひそひそと。遠藤さんの悪口や、なんで川合さんが、なんて。それでも二人は仲良しのまま。結局クラスも慣れてしまった。

「あ、染谷君おはよう!昨日はありがとねー。助かった!」

 急に声をかけられて、僕は大きく方を揺らしてしまった。まさかクラスで声をかけて来るなんて。ああ、遠藤さんと同じように、ひそひそ声が聞こえて来る。出来れば放っておいて欲しかった。

「お、おはよう」

 それでも友人と言われたのはうれしくて、無視するわけには行かなくて。返事をすると川合さんはふふんと嬉しそうに笑った。

「川合そういうのがタイプなの?」

「そういうのって?」

 意地悪く聞いてきたクラスメート。かぁっと顔が赤くなるのが分かる。川合さんが僕なんかを相手にするわけがないと、分かってからかってくるんだ。

「そういう、暗いヤツ」

「染谷君は暗くないよ」

「「え!?」」

 驚いた声がクラスメートとかぶった。初めて言われた、暗くない、なんて。

「なに自分で驚いてるのー?そういうところが染谷君、面白いよね。染谷君は暗いんじゃなくて、面白いよ。少なくとも私から見たらね」

「そ、そんなこと」

「でもタイプではないかなー。染谷君ごめんね」

「何で僕が告白したみたいになってるの!」

 驚きのあまり大きな声が出た。昨日みたいな声。そしたらクラスメートもビックリした顔をした後、何だかばつの悪そうな顔をして最後には笑った。

「あー、たしかに。面白い、かもな。勘違いしてたみたいだ。悪いな、染谷」

「い、いや」

「もっと大きな声で普段から話せばいいのに」

 ぼそり、と小さな声でつぶやいて、その生徒は僕を見た。

 稲村悟(いなむらさとり)。それがそのクラスメートの名前。

「稲村くらいバカみたいに大きい声が出ればいいのにね」

「バカって何だ!」

「その声その声ー」
 
 稲村君をからかって楽しそうに川合さんが笑う。もう、クラスメートからひそひそ声は聞こえない。川合さんの明るさと、稲村君の笑い声で、いやな空気が吹き飛んでしまったよう。

「あ、やばっ!授業始まるじゃん。綾香!テストー」

 バタバタと川合さんが遠藤さんの元に戻る。遠藤さんは仕方ないなぁと教科書を開いた。

「染谷昨日なんかあったのか」

「あ…えっと、喫茶店に行ったら川合さんと遠藤さんに会ったんだ。それで、勉強会」

「ほぉ。女子二人に囲まれて勉強会とは」

「い、いや、女子二人っていうか」

 稲村君に言われて、慌てたあまり川合さんのことを話しそうになった。危ない危ない。昨日の川合さんの雰囲気だと、女子というより男子と話しているようだったなんて、言えっこない。

「…両手に花、でした」

「ふっ!両手に花とか…。でも川合に勉強教えるの大変だろ?あいつ、俺よりバカだからな」

 そんな自信満々で言われても…。

「稲村君も苦手?」

「ああ、俺もバカだ。と、言う訳で今日のテスト助けろ」

 ガタガタと机の上に教科書を広げられてしまう。内心えーっと思いながら、それでも友人と勉強って言葉が頭に浮かんでちょっと嬉しくなってしまう。

「あ、今にやついてるぞ。何考えているんだいやらしい」

「え、うわっ!い、いやらしいことなんて考えてないよ!」

「あやしいな」

 にやにやと稲村君が言う。

「そんなこと言うなら、勉強教えないけど」

「それはご勘弁」

「というかもう結構手遅れだと思うけどなぁ」

「うわ、お前結構言うのな。ヤマはってよ」

「えー、外れても怒らないでよ」

「いいって」

 こことここと、何て指示したところにチェックを入れていく稲村君を見つつ、チラリと川合さん達に目をやると、同じようなことをしていて少し笑ってしまった。

 もうダメかも、なんていう稲村君を励ましつつ。

 充実した朝の時間を、僕は過ごした。
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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

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紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
読書、ギターを弾くのが趣味です。

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