コンテントヘッダー

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
コンテントヘッダー

ソラマチ3

 私が嫌いで捨てた「私」をあなたはいつも拾ってくれる。

 両手で大事そうに持って、包み込んでくれる。

 それで満足いくまで温めたら、はいって私に返してくれる。

 そしたら何故か、いらなかったはずのものが、宝物になってるの。




「綾香の予想的中だったね!おかげで私、いつもより良さそう!…少なくとも赤点はのがれた!」

「え、あんなにやったところばかり出たのにその程度…」

「ひどっ!その程度とはヒドイなぁ。これが私の実力だー!」

「威張る所じゃないでしょう」

 佐智の言葉に笑ってしまう。今日は現代文、数学、そして生物のテストで、佐智の苦手が盛りだくさんだった。

 よっぽど疲れたのか机に突っ伏してなかなか起き上がろうとしない。私はその様子を見てまた笑う。

「午前で帰れるのが救いだなぁ」

「ねぇ佐智。今日はどこ行く?」

「まずは昼御飯だね。ファストフードでいいかい?」

「ええ。お金は甘いものに使いたいものね」

 私が言うと、佐智が顔を上げてにひひと笑う。

「染谷君も来ないかな」

「え、なんで?」

「なんでって、昨日みたいに一緒に甘いものを食べたいなと思ってさ。それに彼は古典が得意らしい。明日のテスト対策もしてほしいなぁ」

 私は内心穏やかじゃなかった。佐智が染谷君に取られてしまったみたいで、いやだった。佐智は私のものじゃないけれど、染谷君を頼りにするのはつまらなかった。

「よしましょうよ。染谷君だって勉強したいだろうし」

「そうかな…確かに、迷惑をかけてしまうかもしれない」

 少し悲しそうな顔をする佐智に罪悪感が湧いてしまう。私、とても醜い。

「佐智ー、いつまでへばってんの?遠藤さん困ってるぞー」

「困ってませんー。帰り?」

「うん。じゃあまた明日」

「明日ねー!」

 クラスメートの吉井さんがクラスを出る時に佐智に声をかけた。目があって微笑まれると、どうしていいか分からなくてうつむいてしまう。

「綾香、よっしー帰ったよ」

「…うん」

「声を出すのが無理なら、笑いかけるだけでいい。それも無理だったら、手を振るだけでいいんだよ」

 佐智は何でもお見通し。私の縮こまった心を、優しく解いていってくれる。

「う、うん。次、頑張ってみるわ」

「ふふ、ちょっとずつでいいんだ」

 ぽん、と頭の上に手を置かれて、さぁ帰ろうと微笑む佐智。ありがとうと心の中でお礼を言って、私は鞄を手に持った。

 クラスにはもう人がほとんど残ってなくて、いるのは染谷君と稲村君くらいだった。二人とも今日のテストの答え合わせをしているみたい。佐智が染谷君を誘うんじゃないかとハラハラする。

 そんな自分が嫌になっちゃう。

「じゃあね、染谷君。ついでに稲村も」

「ついでは余計!」

「あはは。うん、また。…遠藤さんも」

 染谷君が私の名前を呼ぶものだから、驚いてしまった。私が声をかけたわけでもないのに。

 彼はきっと私のことも友人と思ってくれているのでしょう。こんなに醜く、心のねじ曲がった私。

 何だか、自分が恥ずかしい。勝手に嫉妬して、不安になって。

「あ、あの!」

 気がついたら大きな声を出していた。染谷君も、佐智も…稲村君も驚いた顔をしている。

「よかったら、お昼一緒に食べに行かない?佐智が、その、染谷君に古典を教わりたいんですって」

「えッ…僕が行っていいの?」

 嫌だって気持ちは、好きだって気持ちとか、他の気持よりもすぐに相手に伝わってしまうもの。私が染谷君のこと、いやだなって思っていたのを、染谷君は感じ取ってしまっていたんだ。だから、おずおずとそんな言葉が出てしまう。

 本当に、申し訳ない気持ちになって、私は何度もうなずいた。するとポン、と頭の上に手を置かれる。佐智だ。

「あたりまえじゃん。むしろこっちが頼んでるんだよー。まさか綾香の頑張りを無にしたりしないだろうね?」

 佐智は、私を分かってくれている。私がどんな気持ちでいるか。佐智にはお見通しだったんだ。偉いぞ、と私にだけに聞こえるように落とされた言葉がくすぐったかった。

「う、うん。じゃあお邪魔しようかな」

「えーじゃあ俺も行く!」

「稲村はいらないわー。ね、綾香」

「え、ええっと」

「そこはそんなことないよって即答してくれない時点で傷つぞ…」

 大げさに肩を落として言う稲村君。私が慌ててフォローしようとすると、佐智が大きな声で笑い出した。染谷君までプルプルと震えて我慢しながらも笑っている。それを見たら、何だか私もおかしくなって笑ってしまった。

「ひどっ!遠藤さんまでひどい!」

「ふふごめんなさい」

「あはは、じゃ、満場一致で稲村はいらないということで」

「おーい!こら、染谷何とかしろ」

「え…僕も、うん。両手に花のままで」

「おいぃい!まさかの裏切り!」

「さて、行きますか」

「そしてその切り替えの早さ!」

 稲村君が言って、立ち上がる。もちろん四人一緒にクラスを出た。

 ファストフードでは染谷君の食欲に驚かされた。多分私の三倍は食べていたわ。太っているわけでもないのに、どこにあんなに入るのかしら。

 そのあとは私達お気に入りの甘味屋さんに二人を連れて行ってあげた。稲村君も染谷君も甘いものが大好きなんだって。四人で古典の問題を出し合いながら食べるデザートは、いつもと違った味がした。

 佐智と二人の時より疲れたけど、楽しいと思えることも多かった。染谷君は声が小さくてたまに何を言っているか聞き取れなかったけれど、佐智や稲村君が何度も聞き返すと、だんだん声が大きくなっていった。

 それってきっと、染谷君にとってすごいことだったんだろうなと思う。

 私が染谷君達を誘えたことと同じように。

「綾香と二人きりはやっぱり落ち着くな」

 帰り道。遅くなったからと佐智は私を家まで送ると言ってくれた。そうしたら佐智が危ないじゃないと言ったのだけれど、どうしても聞きいれてもらえなかった。

 染谷君と稲村君とは甘味屋さんで別れた。稲村君は頭を使い過ぎたと疲れ切った表情をしていたっけ。

「落ち着く?」

「うん。みんなといるのは楽しいよ。でも、綾香との時間も大切にしたい。僕は、綾香と二人きりの時間が大好きなんだ。だから綾香。染谷君達と仲良くなるのはいいけれど、僕のことを忘れないでくれよ」

「…それは私の台詞」

「うーん、僕ってば愛されてるなぁ」

「そうよ。私、佐智のこと大好きなんだから。染谷君に嫉妬しちゃったじゃない」

「そっか…ふふ、嬉しいけどね。ゴメン」

「いじわる」

「ごめんって」

 今日は、何だかフワフワしてた。テスト期間っていう非日常に浮かれてしまったのかしら。ううん、そういうのじゃないって私が一番よく分かってる。

「友達、増えたね」

「…うん」

「嬉しい?」

「ちょっと怖いけどね」

「そっか」

「うん」
スポンサーサイト

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

コンテントヘッダー

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
読書、ギターを弾くのが趣味です。

よろしくお願いします。

最近の記事
最近のトラックバック
最近のコメント
月別アーカイブ
カテゴリー
FC2カウンター
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。