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ソラマチ4

――母さんのこと、あんまり困らせるなよ

 言った瞬間に、やってしまったと思った。

――ごめん

 そう謝ったお前の顔を、俺は忘れることが出来ない。

 傷つけたんだ。それも、ひどく。

――普通になるよ

 そんな言葉を聞きたいわけじゃなかった。

 だけど、取り返しは付かない。



 あの時から、佐智と笑いあった記憶が、俺にはない。




 隣の部屋から聞こえて来る笑い声に、俺はベッドから落ちそうになった。

 この家に笑い声が響く、なんて何年振りだろうか。そういえば、佐智が友人を連れて来たのもひどく久しぶりのことかもしれない。

 そう、今日は妹が友人を連れて学校から帰ってきた。その綾香、と呼ばれていた女の子は少し気が弱そうな子、という印象だった。悪い言い方をすれば、少々暗い子だと思う。

 だけれど佐智もそんなに明るい性格ではないし、きっと話が合うのだろうと思う。

 しかしあんな風に佐智も笑うんだな。

 懐かしいような、悲しいような気持ちになる。

「兄さん」

 ぼんやりと音楽を聞きながら漫画を読んでいたら、ノックとともに部屋の扉が開かれ、佐智がそこにいた。

「ん?」

「友達帰るから、送って来るね」

「ああ、気をつけろよ」

「うん」

 佐智の後ろにいる綾香ちゃんと目が合うと、慌てたように頭を下げられた。こちらも会釈を返す。

「あ、綾香ちょっと待って。携帯取って来る」

「分かった。先に玄関行っておくね」

 佐智が自分の部屋へと戻り、綾香ちゃんが玄関に向かう。俺も、見送らないと悪い気がしたので、玄関の方へと行った。

「あ、お、お邪魔しました…!」

「いえいえ、お構いも出来ませんで」

 腰の低い子、と言うか人見知りする子なのだろうか。えらく緊張している。見送りに出たのはまずかったのかもしれない。しかし今さら戻るというのも感じ悪いしなぁ。

 少し困りつつ、綾香ちゃんに話しかける。

「佐智と仲良くしてくれてありがとな」

「そんな…私の方が、構ってもらっている感じなので」

 最悪返事が来ないことを予想していたけれど、驚くほどすぐに返事は来た。下を向きつつ、訥々と綾香ちゃんは言う。

「佐智は、クラスの人気者で…明るくて、優しくて…自慢の友達なんです」

「え」

 驚いて声を上げると、不思議そうな顔をされた。

「明るい?」

「え?ええ…」

 家での様子との違いに驚いていると、佐智が玄関にやってきた。

「お待たせ。ごめん、行こうか」

「うん。あ、お邪魔しました」

「あ…ああ。またいつでもいらっしゃい」

「いってくる」

「いってら」

 送り出して、部屋に戻りベッドに飛び込む。明るい?人気者?

 家では笑わないのに?あまり話もしないのに?

 …ああ、佐智は。

 佐智は、この家が嫌いなのか。

 それはひどく衝撃的だった。自分が情けなかった。

 共働きの両親の代わりに、俺は佐智の世話を幼いころからしてきた。一番、佐智との距離が近かったと思う。

 それなのに。

 ……気がついたら眠っていた。隣の部屋からは人のいる気配がする。佐智が帰って来ているのだろう。

 俺は起き上がってしばらくボーっとした。

 それから気を引き締めるように頬をたたくと、部屋を出て佐智の部屋のドアをたたく。

「なに?」

 机に向かう佐智の姿がそこにはあった。

「勉強中か」

「うん」

 振り向かず、黙々と手を動かす佐智。頭はあまり良くない。高校は目標よりワンランク落として入った。

「さっきの子、さ。友達?それとも…恋人?」

 さらさらと、流れるように動いていたペンが止まる。しかし佐智が俺の方に向き直ることはなかった。ノートに目を落としたまま、佐智が答える。

「友達」

「あ…そおだったんだ」

 話は終わった、と言うように佐智の手が再び動き出す。勉強が苦手な佐智だけれど、努力は人一倍している。そんな佐智が、俺は誇らしかった。

「もし」

 どうしようもなくて部屋に戻ろうとしたとき、佐智が口を開いた。

「もし、恋人って言ったらどうするつもりだったの?」

「それは…まぁ、奪ってたかも」

「奪うって?」

「あの子、綾香ちゃん。わりとタイプだから」

 初めて佐智がくるりと椅子を回転させてこちらを見た。驚いた顔に、自然と笑みがこぼれる。

「兄さん」

「俺さ…後悔してるんだわ。昔はなんつーか、視野が狭くて、それと語彙力もなくて。佐智にひどいこと言った」

 俺が言うと、佐智が目を細めた。

「今はでも、誰が何と言おうと佐智の味方だから。母さんとか、父さんに何言われても…俺は佐智の味方でいるから」

 だから。

「許してほしい」

 深々と、頭を下げた。こんなにちゃんと謝ったのは、小学生の時草野球をしていて、近くの家の窓を割ってしまった時以来だ。

 佐智からは何も反応がなくて、仕方ないから恐る恐る顔を上げると、いつの間にやら佐智は立ちあがって、俺の目の前に来ていた。

「兄さんが謝るのはおかしい。変なのは私でしょ。悪いのは私なんだから」

「違う。佐智は変じゃない。佐智は佐智なんだ。俺も俺だし、他の人もそう。ただ、それだけのことなんだよ」

 伝わるだろうか、佐智。俺が言いたいことが。佐智は変なんかじゃない。佐智のそれは、すごくステキなことだと俺は思う。佐智のおかげで俺の世界は広がったんだ。佐智がいなければ、きっと知ることのなかった世界。

「俺は…佐智とまた、楽しく過ごしたい。だから謝った」

 くるりと佐智が俺に背を向ける。そして再び机に向かうと、ペンを滑らせ始めた。

「佐智」

「私はずっと、楽しかったよ」

「え」

「兄さんと過ごす毎日は楽しい」

 佐智は淡々と語る。

「だけど、理解されないのは辛かった。心のどこかで、兄さんは僕を軽蔑していると思っていた。だから、怖かった」

「佐智」

 久々に聞いた、「僕」と言う佐智。

「佐智を軽蔑するなんてありえない。俺は、佐智を誇りに思ってる」

「…ありがとう」

 佐智の手の中でペンがくるりと向きを変える。くるくる回って、ノートに着地。さらさらさらさら進む進む。

「でも、綾香はダメだから。兄さんにはあげない」

「えー」

「綾香にはもっとちゃんとした人と付き合ってもらいたい」

「兄ちゃんわりとしっかり者だと思うけど」

「へぇ、そうだったんだ」

「おいおい」

 くすり、と佐智が笑う。俺もつられて笑う。

 そんな、些細なことがひどく嬉しかった。




川合家のお話。1.2.3より少し前の話です。
佐智が何に悩み、何を怖がっていたのかはご想像にお任せします。

ただ、佐智は佐智だから、という兄の台詞は、自分が言われたいなぁと思った言葉をそのまま書きました。

兄は佐智のことを理解出来ているわけではありません。だから今の段階で兄がかけられる言葉はそれくらいのものなんです。それでも兄は佐智のことを理解したいと思っています。
そんな気持ちを分かったから、佐智は兄をもう一度信じたいと思いました。

ぎこちない兄弟ですが、仲はいいです。

これからちょいちょい兄は出てきます。
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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

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紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
読書、ギターを弾くのが趣味です。

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