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目が合う

 --まだまだ寝たりない

 私は吊革にすがるようにして立ちながら、あくびをかみ殺した。

 満員電車の煩わしさも、この眠気を前にすればどうでもよくなる。

 今はただ、もう眠ってしまいたい一心で、立ちながらも目をつむっていた。

 何度か吊革から手を放しかけて、つかんでを繰り返していたけれど、さすがに熟睡はできず、気怠さを感じながら目を開ける。

 ちょうどホームについたところだった。

 駅名を確認すると、私の目的地までもう少しだということが分かったから、私は、軽く体を伸ばして、下りる時に備え始めた。さすがに、ぼけっとしたまま満員電車から降りるのは危険すぎるから。

 と、電車が動き始めた。私は吊革につかまる。だんだんと電車の速度があがり、ホームにいる人が景色として流れていく。

 私はそんな様子を、何も考えずに眺めていた。

「あ」

 しかし、思わず小さな声を上げてしまうくらい、驚くことが起こった。

 ホームに立つ人と、目が合ったのだ。

 もう電車はかなりスピードを出していて、私の動体視力では、ホームにいる人や、物の形をとらえることなんてできなくなっていた。

 それなのに、なぜだかその人だけは、きちんと姿が見え、目があったと感じたのだった。

 そんなわけで、私はひどく驚いたのだ。

 私が上げた声に、周りの人は何事かと戸惑っている。すみませんととりあえず謝っておいて、窓の外に改めて目を向けると、もうそこは真っ暗闇。ホームからは遠ざかってしまった後だった。

 いったいどうしてあの人だけきちっと見えたのだろうか。なんだか不思議な体験をしたようで、わくわくしたと同時に、気味が悪くもあった。

 しかし目があったといっても、こちらが一方的にそう思っているだけだろう。きっと「そんなきがした」だけなのだ。
 
 私は自分にそう言い聞かせると、このことは、忘れることにした。

 ただ、どうしても頭を離れなかった。

 背広を着た。

 おそらく男の人。

 私と同じ年くらいの。

 笑っていた。

 あのホームの人。


 結局仕事に集中できず、ただ時間だけが過ぎて、帰る時刻となった。仕事は進まなかったが、今日は何をやっても駄目だろうと、残業することなく帰宅することにした。

 帰りも人が多い。

 嫌になると思いつつも、吊革につかまり、目を閉じる。

 あ。

 デジャヴ。

 これはいけない。

 そう、思った。


 朝と全く同じことをして、どうすると、自分を叱りたい気持ちになる、忘れようとしていたのに、思い出してしまうじゃないか。

 …あの人のことを。

 アナウンスで、駅名が流れて、はっとする。

 それは、朝のあの駅で。

 思わず目を開けて、しまったと思う。

 駅のホームの景色が、目に飛び込んできた。

『発車します』

 アナウンスの声。

 私はなぜだか、目を閉じることができない。

 怖いもの見たさというのだろうか。

 気になって仕方がなかったのだ。

 景色が流れ出す。だんだんと。

 だんだんと速度を増す。

 人が、流れ出す。

 インクがにじんだみたいだ。

 そんなことを思っていると、そのにじんだ世界にぽつんと、しっかりと輪郭を持った人が目に入ってきた。

 あの人だ。

 すぐに分かった。

 しっかりと、目が合う。

 どきり、と心臓がはねた。

 ああ。

 間違いない。

 気のせいなんかじゃなかったんだ。

 その人はだって。

 こちらを見て。

 にやり。

 と。


 笑った。


 ブラックアウト。

 一瞬、自分が気を失ったのかと思った。

 違う。

 ホームから電車が出ただけだ。

 あの人は当然、もういない。

 私はホッと息をついた。

 しかし。

 ぼうっと。

 窓の外に浮かぶ人影を、私は見つけてしまった。

 それははじめは小さくて、なにかわからなかったのだけれど。

 だんだんと、大きくなってくる。

 それが人だとわかる。

 顔が見える。

 それが、あのホームの人だとわかる。

 どんどん近づいてくる。

 どんどん。

 どんどん。

 どんどん。

 ……大丈夫だ。あの人は窓の外にいて、電車の中にはたくさんの人がいる。

 怖いことなんて何もない。ひょっとしたら、私は夢を見ているのかもしれないし。

 そうだ、こんなことはありえない。夢なんだ。早く醒めろ。私のばか。

 早く、早く。

 あの人はもう、変わらない笑顔のまま、私から一度も目を離さないまま。

 もう、そこまで…。

 窓に映る私のそばまで…。



 …待てよ。

 もし、あの人が窓の外じゃなくて私の後ろにいるとしたら?

 いつの間にかに、電車の中に入ってきていて、私の背後にどんどんと忍び寄っていたのだとしたら?


 彼はもう、私の。

 私の肩に、手を置いて。



 とん。

 肩に、重み。



「つかまえた」




 心臓が、止まったかと思った。

「もう、脅かさないでよ」

 その手の主は、私の彼だった。

「なんだよ、ただ声かけただけじゃん」

「だって、ちょっと怖い夢見てたから」

「立ちながら寝るからだろー?」

 からかうような彼の声に、私はホッとした。やはり、夢だったのだ、全部。

 全くなんでこんな夢を見たのか。疲れてるのかもしれない。

 満員電車の中、それを理由に彼に寄りかかりながら、今度休暇はどこに行こうかと話す。

「一緒だったら、どこにいても幸せだろ?」

 彼はそう言って、ニコリと笑った。

 私もそうだねとうなずいた。





『本日午後七時頃、地下鉄内で女性が意識を失い、病院に運ばれましたがそのまま死亡しました』

『同僚の方の話によると、女性は交際相手を少し前に亡くしており、ひどく疲労していた様子だったとのことです』







 一緒だから、私は幸せ。


 そう、だよね?
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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

ブラックー!!読み終わってにやっとしちゃった(゚ロ゚)

これから恋が始まるの?それとも死んでしまった誰かの幽霊?とは思ったけど、あの世のお迎えにきた彼氏だったとは!!驚きでした

Re: タイトルなし

智氏へ

ブラックでしょう(笑)

えへへ、コメントありがとう!久々に小説書いたから、コメント本当にありがたいよー。

たまーに怖い系も書きたくなるんだよね。でも意外性も欲しい!と思ってこんな感じになりました。
驚いてくれてよかった!

ではでは!
プロフィール

紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
読書、ギターを弾くのが趣味です。

よろしくお願いします。

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