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竜の涙 5

 近くまでルイスに送ってもらったおかげで、トーマは無事に動物園に戻ってきた。動物園に入り、帽子を脱ぐや否や係員が駆けつけてきて、園長の元へと連れていかれた。

そしてこっぴどく叱られた。

「音楽家に襲われたという情報もあったし。心臓が止まるかと思いましたよ!本当に勘弁してください」

「すみません。演奏はちゃんとしますから」

「演奏の心配をしているんじゃない。君の心配をしていたんだから!」

 園長の意外な言葉に、トーマは驚いてしまった。動物園第一、演奏会命の園長が演奏会よりも自分を心配していたなんて。自分は少し、この園長について思い違いをしていたのかもしれない。そう思うと、申し訳なさと、胸が温かくなるのをトーマは感じた。

「すみません。それと、ありがとうございます」
 
 トーマに深々と頭を下げられると、園長はうっ、と言葉に詰まった。そして大きなため息をつく。

「…では、今日も演奏お願いしますね」

 言われて、トーマは、元気よく返事をした。なんだか今日は、とてもいい演奏ができそうな気がしていた。

 それはきっと、ルイスやマスターに会って、お話ができたからだろうと、トーマは思った。

――また、あの喫茶店に行きたいなぁ

 演奏会の準備に行こうとする園長をとめて、トーマは思い切って自分の気持ちをぶつけてみた。

「今日、外に出てとても怖い思いもしましたけど、いいこともあったんです。園長さん、お願いです。毎日少しの時間でいいので、自由に行動させてくれませんか」

「君は一度襲われています。また同じことが起きたら困ります」
「でも、その…今日助けてくれた方とお友達になれたんです。もっとその人とお話がしたい」
「それは、誰です?」

 園長に問われて、トーマは困ってしまった。ルイスはきっと、名前を知られたくないだろう。もしかしたら園長がルイスの事を知っていて、警察に捕まってしまうかもしれない。

「それは…喫茶店をやっている、その、マスターさんです」

 とっさに、マスターの名前を出そうとしたけれど、マスターとしか教えてもらっていないことに気が付き、しどろもどろな返事になってしまった。

「マスター?名前は?」

「教えてもらってないんです。女性で、マスターとだけ」
「ああ、あの方ですか」

 どうやら園長は面識があるようで、少し考え込むようなそぶりを見せた。

「…送り迎えをさせてください」
「あ、帰りは近くまで店員さんが送ってくれます。今日もそうでした」

「店員?あそこに店員がいるのですか?」

 驚いた様子の園長が面白くて、トーマは少し笑いながら、はい、と言った。マスターは今までずっと一人で店をやってきたようだ。

「そうか…ここまで来てくれたらお礼ができたのに」
 
 ポツリ、とつぶやいてから、園長はトーマに向き直り、いいでしょう、と言った。
「その代り、絶対に一人で動いてはいけませんよ」

「はい…なんだか園長さん、お父さんみたいですね」

 トーマが言うと、園長は嬉しそうに微笑んだ。

「それに、マスターさんとお知り合いなのに驚きました」

「あの方は、私のお父さんの初恋の相手なんですよ。結局、お父さんが死んでしまうまで相思相愛にはなれなかったみたいですけどね」

 懐かしそうに目を細める園長は、新鮮だった。いつも演奏や、町の事、竜の話ばかりで退屈だったけれど、こういう話はもっと聞きたいなとトーマは思った。

「いつもは厳しかった父が、あの人に言葉をもらったと舞い上がったり、あまりおいしくもないコーヒーを何度も飲みに行ったり…。私はそんな父を見るのが大好きでしたから、マスターさんの事も好きですよ」

「伝えておきますね」

「ええ。最近お会いしていませんし、暇ができたら私も行きたいものです」

 しみじみと園長が言うのを聞いて、トーマはうれしくなった。きっとマスターも喜ぶだろう。

 その後すぐに係員がやってきて、二人は慌てて演奏会の準備に移った。その日の演奏は、久々に晴れやかな気持ちで行うことができ、トーマは自分の演奏に少し満足したのだった。

 翌日も、その翌日も。毎日トーマはルイスとマスターに会いに行った。

 送ってくれる園の係員と、ルイスが顔を合わせないように、いつも喫茶店の前までトーマは送ってもらっていた。その様子を見て、マスターがVIPだ、とトーマをからかったのは言うまでもないだろう。

 喫茶店に行って、話をするのは主にマスターとトーマだった。ルイスはそれを、近くで聞いている。たまに話題をふられてぽつりぽつりと話すものの、自ら進んで話をすることはなかった。

 自分の知らない外の世界について語るマスターとトーマに、ルイスはたまに疎外感を抱くことがあった。それでもルイスはそんな毎日を楽しんでいた。

 やがて、トーマが喫茶店に通い始めて一か月が過ぎた。いまだ、動物園から解放されていないトーマは不満が爆発しそうで、喫茶店につくと早速マスターに愚痴をこぼし始めた。

「もう、いやになっちゃいますよ。園長さんにお願いしても、ごまかされて終っちゃうし!」
「荒れてるね」

 なだめるようにマスターがやさしく声を掛ける。ルイスは何も言わなかったが、ココアの入ったマグカップをトーマの前に置いた。

「園長…悪い奴じゃないんだけどね。この町に尽くすのが自分の使命だと思っているから、トーマ君を引き留めるのに必死なんだと思うよ」

「マスターさんと園長さんは知り合いなんですよね」

 園長の事を話すマスターに興味を持ったのか、トーマはコロッと怒りを忘れてマスターに尋ねた。

「ああ。奴の父親が私に惚れていてね」

 ふふ、と自慢げに話すマスター。懐かしむように目を細めて、続ける。

「私は家というものに縛られるのが嫌で、別に奴が嫌いというわけではなかったけれど、断った」

 ふっとマスターの表情が和らぐ。

「それなのに、何度も何度も申し込んでさ…強情な奴だった。結局誰とも結婚することなく、若いうちに死んでしまったっけ」

 しみじみと、さみしそうな表情を見せるマスターに、トーマは、そうだったんですか、と言うことしかできなかった。

「たまにこう、故人を偲んで語るのもいいものさ。そんな顔をする必要はないよ」

 言われて初めてトーマは自分が申し訳なさそうな顔をしていることに気が付いた。マスターの言葉が本当かどうかはわからなかったけれど、素直にうなずき、すみませんと少し笑って見せた。

 そんな二人のやり取りを見ていたルイスが、静かな声で尋ねる。

「園長と父親に血のつながりはなかったのか」
「ああ、そうだよ。いっただろ。生涯独身だったって。園長は拾われたんだ」
「…そうか」

 捨てられた子ども。ルイスはあの園長が自分と同じ境遇だったことに驚いていた。

「園長は、この町に救われたと思っている。だから、この町の為にだったらなんでもしてしまうのさ」

 マスターの言葉に、トーマが困った顔をする。
「そんな話を聞いちゃったら、無理やり出ていく気が失せちゃいますよ」

「それでもトーマ君は出ていきたい。そうだろう?」

「それは…そうです。園長さんの一生懸命さの理由はわかったけれど、僕は夢を叶えるのをあきらめる気はない」

 ぐっと拳を固めて言うトーマに、マスターはやさしく微笑んだ。

「とは言っても…出ていく手段がないんですけどね。あーあ、どうしよう」

 くたりとカウンターに頭を付けて、悩むトール。そればっかりはどうにもなぁ、とマスターも渋い顔だ。すると、黙っていたルイスがゴホン、と咳払いをしてから、トールに話しかけた。

「解決にはならないが…気晴らしに、この町の名所に行ってみないか?」

 ルイスが急に言いだしたことに、トールは少し驚いた。しかしすぐに元気よく「行く!」と答える。
 
 マスターは子供の成長を喜ぶ親のような顔でルイスを眺めた。

――トールが来てから、こいつも変わったな

「ちょっと店空ける」

「ああ、ちゃんと演奏会に間に合うように、送り届けるんだよ」

 いってらっしゃいと、マスターに見送られて、二人は町に出た。また以前のように二人とも目深に帽子をかぶっている。

 少し前を歩くルイスについて歩きながら、トーマはルイスの気遣いに感謝していた。

トーマはいつの間にかにルイスのことが大好きになっていたのだった。そして、お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな、とも思っていた。寡黙で口が悪いのが無愛想なイメージを抱かせるだけで、一緒にいると安らげる人だと感じていた。

だから、名所に行きたいというのは気持ちの半分。もう半分はもっと一緒にいたい、と思ったのだった。
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
読書、ギターを弾くのが趣味です。

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