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竜の涙 11

「マスターさん!」
 
店に飛び込んだトーマに驚いた様子もなく、マスターは悲しそうに微笑んだ。

「あのバカがやらかしたね」

「知ってたんですか」

「ああ…そんな目で見てくれるなよ。私だってとめたさ。だけどルイスは考えを変えてはくれなかったようだ」

 深く、ため息を吐き出しながらマスターが言う。その苦渋に満ちた表情に、トーマは何も言えなくなった。

「あいつは本当にバカだ。自分の気持ちばかり押し付けて…トーマ君を、悲しませるなんて」

 マスターはそうつぶやくと、トーマの頭を撫でた。その優しい手つきに、トーマは耐え切れず涙を流した。

「僕は、どうすればいいんですか」

「…あいつを想って泣いてくれるんだね。それだけでいいんだよ。なんせルイスには、味方は私たちしかいないんだから」

「でも、このままじゃ死刑にされてしまう」

「もう、こうなってしまったら私たちにはどうしようもできない」

 うつむいて、マスターが言った。いつもの明るさがなく、力ない様子のマスターに、トーマは彼女が心の底から悲しん
でいるのを理解し、何もできないことに歯がゆさを感じた。

「…僕の為に、ルイスさんは」

「違う。あいつは、自分の為にしでかしたんだ。トーマ君が責任を感じることはない」

 トーマの言葉を途中で遮って、強い調子でマスターは言った。トーマはその言葉を聞いて、うつむいてしまう。

「何か温かいものでも淹れようか」

 落胆したトーマを慰めようと、マスターはトーマの腕を引いて、座らせようとした。しかしトールは動かず、勢いよく顔を上げる。

「マスターさん。僕、園長さんに掛け合ってみます!」

「やめな。トーマの立場が悪くなる」
「嫌です!」
「だめだ。そんなことしてもルイスは喜ばないよ」

「ルイスさんの気持ちなんて知りません!ルイスさんだって僕の気持ちを考えずに勝手なことをしたんだもの」

 そういうと、トーマは強い意志を秘めた瞳でマスターを見た。しばらく二人は睨み合っていたが、マスターが大きくため息をついて折れた。

「わかった。…トーマ君は、そこまでルイスの事を大事に思ってくれているんだな」

「はい。大切な人です。友人なんです」

 その言葉を聞くと、マスターは泣きそうな顔でにっこりと笑った。

「あいつを拾ってよかったよ。…あのバカを、頼む」

「はい!」

 元気な返事を残して、トーマが去っていく。その姿を見送って、マスターは、小さくつぶやいた。

「二人とも。無事で」

***

 園長はどこにいるのだろう。警察署について行ったが、もう帰っているかもしれない。そう考えて、トーマは動物園へと戻ってきた。その考え通り、園長は動物園へと帰ってきており、たくさんの飼育員に囲まれ、慰めの言葉を掛けたり、かけられたりしていた。

「園長さん」

 トーマが話しかけると、園長は振り向き、ああ、と返事をした。他の飼育員も、トーマの為に道を開けてくれる。

「トーマ君…すまないね。君の事を忘れてしまっていた」

「いいんです」

「君は旅に出たがってたね」

 そういうと、園長は少し考えてから、みんなに席を外すように頼んだ。他の飼育員が出ていくと、園長はトーマに向かい側に座るように言った。

 トーマが座ると、園長が暗い声で話し始めた。

「こんなことになってしまって残念です。君の事も、長く足止めしてしまったが…まさかこう、終わってしまうとはね」

「園長さん…」

「いや、すみません。君には多くの報酬と、次に商人が来たら一緒に旅をしてもらえるように交渉しましょう」

 声の調子を変えて、園長が努めて明るく言った。

「待ってください。僕は…僕から、お願いがあるんです」

「なんですか」
「ルイスさんを、死刑にしないで欲しいんです」

 トーマが言うと、園長が驚いて立ち上がった。ガタン、と椅子が鳴って、トーマはピクリと体を揺らした。

「今、なんと…」

「すみません。園長さんにとって、とても許せないことだとは分かってます。でも、それを承知の上でお願いしたいんです」

 トーマが深々と頭を下げながら言うと、園長は冷静さを取り戻して、ゆっくりと座ると、訳を話してくださいとトーマに話を促した。

「僕と、ルイスさんは友人なんです。兄のように、慕っています」
「それは…それでは、君が会いに行っていたのは」

「ルイスさんです」

「ああ…」

 言葉にならないのか、園長は嘆いて、大きくため息を吐いた。

「ルイスさんは、僕が旅にまた出たいことを知っていたから、僕を助けるつもりで竜を殺してしまったのだと思います」

「そう、そうですか。ああ、なるほど。おかしいと思っていた。ルイスが簡単に捕まるなんて」

 園長は、しばらく考えるように頬に手を当てていた。その様子を緊張しながらトーマは見つめている。

「トーマ君。君は、自分の立場が悪くなることをわかってここに来た。それはどうしてですか?」

「…大切なんです」

 マスターに話したのと、同じようにトーマは正直に自分の気持ちを話した。園長はそれを聞くと、何故だか少しだけ嬉しそうな顔をして、二度三度とうなずいた。

「わかりました。元から、この町の人達に、人殺しなどしてほしくなかったので、どうにか死刑を取りやめにできないかと考えていたのです」

 意外な言葉に、トーマは驚いて園長を見た。園長は優しい顔で微笑んだ。

「私は、この町の事を一番に考えているんですよ。この町が立ち直るのに、死刑はいらない」

 そして、トーマの頭を一撫でする。マスターの手とは違う、しかし優しいその手に、トーマは小さく微笑んだ。

「さて、でもルイスにはこの町から消えてもらわなくてはなりません。準備をしましょう」

「準備、ですか?」

「ええ。旅の準備ですよ」
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
読書、ギターを弾くのが趣味です。

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