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英雄の遺書

 人を殺してしまいました。

 その人は、冷酷だとか、人でなしとか、そんな風に言われるような人でした。

 僕が彼を殺した理由は、友人を殺されたからです。僕にとって唯一無二の、大切な大切な友人を…殺しておきながら、捕まりもせず、のうのうと生きているのが許せなかったからです。

 あの人は、僕の友人を殺しただけではありませんでした。窃盗、暴行、詐欺、殺人…すべての法を犯すことが目的のように、あらゆる罪を犯していたそうです。それも、巧妙に。

 警察は彼をマークしながら、逮捕することができなかった。

 だからでしょうか。

 ある刑事さんは、僕を捕まえたとき、「ありがとう」と言いました。

 目の前でマークしていた人物を殺されながら、「ありがとう」と、言ったのです。

 僕はとても奇妙に思いました。

 僕は犯罪者です。

 罪人とはいえ、人を殺しました。そんな僕が、人に…警察に感謝されるなんてことがあっていいのでしょうか。

 不思議な気持ちとともに、大きな疑問を抱きました。

 刑事さんだけでは、ありませんでした。

 たとえば、彼に殺された人の家族。盗まれた人、騙された人…。毎日のように面会の依頼がありました。あまりに多くて、規制がかかったほどでした。僕も、会う人を選ばねばなりませんでした。

 僕はだんだん気持ちが悪くなってきました。

 会う人毎に、礼を言われるのです。ある時は笑いながら、ある時は泣きながら。

 僕が困って「僕は殺人犯です」と言っても、みんな「そんなことを言わないで下さい。あなたは英雄です」と答えるのです。

 なんだか耐えられない気持ちになりました。誰かに、僕を責めてほしかった。人殺しと罵ってほしかった。そうでなければ、今まで僕が信じてきた「  」というものが、崩れてしまいそうだったから。

 だから、僕は面会を受け入れたのです。

 彼の家族との、面会を。

 きっと、彼の家族ならば、彼を殺した僕を許さないだろうと思いました。責めて責めて、詰ってくれるだろうと思ったのです。

 予想は裏切られました。

 彼の家族は、僕を見てまず「ごめんなさい」といいました。「あなたの大切な人を、あいつが殺してしまって、ごめんなさい」と。そして、彼らの謝罪は続きました。

「本来ならば、あなたではなく、家族である私たちがあの子を殺しておくべきでした」そんなことも、言われました。

 僕は、鳥肌の立つ腕を擦り合わせました。

 これが、見捨てられるということ。

 彼の孤独を知ってしまい、僕は殺すほど憎かった相手に初めて同情しました。

 結局、僕は人ひとりを殺したとは思えないほど軽い刑を経て、出所したのです。

 僕の出所は、ひっそりと行われるはずでした。それなのに、どこからか、かぎつけた記者の人達にあっという間に囲まれて、今の心境から、殺人に至った動機まで、質問攻めにあいました。それでも、僕を批判するような聞かれ方はせず…。

 その日のニュース番組で取り上げられていた僕は、英雄扱いでした。

 僕は怖くなりました。僕自身、悪いことをした、という気持ちが薄れてきていたのが分かったからです。

 彼は死ぬべき人間だった。だから、彼を殺した僕は英雄であり、責められるようなことは何一つしていない。現に、みんな僕を褒めてくれる。誰も…彼の親族でさえ、僕を責めたりはしないではないか。

 そんな考えが、頭をもたげてきたのです。

 僕が彼を殺したのは、友人を殺されたから。彼が、過去にいくつ罪を犯していようが関係ない。仮に彼がオリンピックに出たようなヒーロー選手でも、あるいは、世界平和に貢献した仏のような人物でも、僕は「友人を、殺された」という理由で彼を殺していたはずです。

 彼のバックグラウンドは、僕の犯した罪には関係ない。

 だから、僕は責められるべき犯罪者である。

 日々、自分にそう言い聞かせて生きてきました。そうしないと、自分の都合のいい方へ、思考が流れて行ってしまいそうだったからです。

 あくまでも僕は犯罪者だと主張しました。周囲の人は、頑なな僕にやや呆れていました。なんと素晴らしい人なんだろう、と勘違いをして言う人もいました。

 違う違う違う!

 何度叫びたかったことでしょう。だれか、誰か僕を批判してくれと。僕が殺したのは、僕のためなのに!

 僕だけの殺人…。頼むから、褒めないでくれ、けなしてくれ!お前は犯罪者だと、糾弾してくれ!誰か!

 …疲れました。もう、疲れてしまったのです。僕の守りたかった「  」。人を一人殺して、守りたかったものは、崩れ去りました。

 裁かれない罪程、心に重くのしかかり、永久の苦痛となりうるものはないのでしょう。

 きっと、今の僕を怒ってくれるのは、あの友人しかいないのです。同じ志を、同じ「  」を持っていたあの人。

 自ら命を絶てば、友人は怒るでしょう。口もきいてくれないかもしれません。

 それでも、僕は…。

 今ならば、彼の孤独がわかります。わかってしまうのです。
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テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

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紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
読書、ギターを弾くのが趣味です。

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