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夢の舞踏会 2

「あー…そういえばお前がいた気がする」

 登校して人の顔を見るなりため息を吐いた前園は、俺を睨みながら言った。

「え、なになに?なんか俺した?」
「いや、夢に出てきた」

「うわー。夢に出るほど俺の事が恋しかったかぁ」
「悪夢だったがな」

 なんだそれ、と突っ込む。

「めっちゃ怖かったんだからな。あんま内容覚えてないけど」

 夢ってそんなもんだよなぁと相槌を打つ。前園は何故だかじろりと俺を恨めしげに見た。

「なんかお前のせいで悪夢になった気がするんだよなぁ」
「え、濡れ衣なんですけど」

 冗談じゃないとこちらも顔をしかめてやる。夢の中の俺がしたことにまで責任は持てない。

「とりあえず、お前の前で物は食べない」
「はぁ?」

 いったいどんな夢を見たのやら、変なことを言い出す前園はしかし、まじめな顔をしていた。よほど怖い目にあったらしい。
「そして、女は当分いらない」
「え、悪夢だよね?」

「女って怖いな…」

 夢でトラウマを作ってどうする。突っ込んでやりたかったけれど前園の青い顔を見たらその気も失せた。

「前園が女紹介しろってうるさいから、奈々ちゃんにお友達のメアド教えてもらったのにー」

 餌をちらつかせるように携帯を目の前でプラプラとしても、前園は黙って首を横に振るだけだ。これは重症だな。

「わかった。奈々ちゃんには俺から謝っとく」

 彼女の奈々ちゃんは優しいからきっと許してくれるだろう。

「悪いな」
「いいさ。でも、もう紹介しろって言われてもできないからな」
「…ああ」

 俺に彼女ができたと知って、うるさいくらいに彼女が欲しいと言っていた奴とは、別人のようだ。
 まぁ夢の事だ。すぐに忘れて、いつもの調子に戻るだろう。

「そういえば昨日の帰りさ…」
 そう思って俺は話を変えて、それ以降夢の話題を出すことはなかった。

 なかったんだけど…。心の中では、どんな夢を見たのだろうと、気になっていたのかもしれない。

 だから、こんな変な夢を見ているのだろう。目の前に広がる景色に、俺は圧倒されていた。

「おじちゃん、わたあめ頂戴!」
「今年は食べ物の屋台が多いねぇ」
「水風船割れちゃった!」

 そこは、縁日の会場だった。どこかの神社だろうか。見覚えのない場所だ。たくさんの人が集まり、活気づいている。金魚のように美しい浴衣を着ている人もいた。

 …人、というのは語弊があるのかもしれない。
 祭りを楽しんでいるのは、猫だった。

 猫と言っても、もちろん普通の猫ではない。二足歩行で、人間のようなしぐさをする。体も人ぐらい大きい。よく見ると、その尾っぽは二股に分かれていた。

「猫又…だっけ」

 呟くと周りにいた人が…猫?が牙をむいた。

「ちょっと!猫又とは失礼だな!私は化け猫だ!」
「え、あ、すみません…」

「間違えないでほしいねっ!」

 ふん、と鼻を鳴らして去って行ったその人を見送ると、後ろからまた声がかかった。

「お兄さん、気にしちゃいけないよ。これだからプライドばっか高い化け猫はいけねぇや」

 振り返ると勿論猫の顔がそこにあった。

「あなたは、化け猫さん?」
「あんな奴らと一緒にされるたぁね。なに怒っているわけではないよ。俺は翼猫ってもんで」

 ぐるりと向けられた背中を見ると、確かにそこにぱたぱたと動くかわいらしい翼があった。

「あ、失礼しました」
「いいや。人間がこんなところに迷い込むなんて珍しいこった。にゃあに、人間様だろうが問題はないさ。安心して、楽しんでいきなせぇ」

「…ありがとうございます」

 威勢のいい翼猫がにこにこと手を振り去っていき、取り残された俺はさぁどうしようと考えた。

 珍しく、すぐに夢とわかる夢だった。たとえ支離滅裂な内容でも、だいぶ進んでから「あ、これは夢だったのか」と気が付くことが俺は多いのだ。

 夢と気づかぬうちは、何をすればいい、などと考えることなく動けるのだけれど、気が付いてしまっている今、正直どうすればよいかわからなかった。

 しかし、折角なんだかおもしろそうな夢を見ているのだから、じっとしているのももったいないと思い、俺は屋台を回ることにした。

「お、人間の兄ちゃんやってくかい?」
「あー…お金がないから」
「なぁに、三回まわってにゃんと言ってくれればいいですよ」

 射的の屋台をのぞくと、そんなことを言われてしまった。それはちょっと、と断ろうと口を開いたときにはたと気が付く。周りの猫たちがわくわくと期待に満ちた視線をこちらに向けているのだ。

「まぁさかやらにゃーいなんて事、言えませんわなぁ」

 怖い。この猫、すごく怖い。

「やりまーす」

 まぁ学校でふざけているノリでやればいいかと、三回まわる。

「にゃん」
「あははー!本当にやった本当にやった!」

 途端にテンション高く絡んでくる屋台主にいらっとして視線を遣ると、鉄砲を三本渡された。どうやらやっていいということらしい。

 あれだけの恥をかいておきながら、俺は景品を取ることができなかった。それがまた面白かったのか腹を抱えて笑い転げる猫に、むっとしてすぐその場を離れた。

「ねぇね、お兄さん。さっきまわってた身のこなし、活かしてみたいと思わないかえ?」

 足早に歩く俺に追いついてきたのは、きらびやかな格好をした美人な猫だった。

「いや…顔から火が出るかと思ったから。結構です」
「そんなこと言わず。さぁさこちらへ」

 がしっと掴まれた力が案外強くぎょっとする。

「ちょっとおねぇさん」
「いいからいいから!」

 仕方がなくついて行くと、神社を抜けて、広場のようなところに出た。

 どぉーんどーんかかっ!と太鼓の音が響き渡っている。櫓が組まれ。その周りに手拭いをかぶった猫たちが楽しそうに踊っていた。
「にゃんにゃか音頭、踊りましょうよ!」
「にゃっ?踊り?」

「あなたの分の手拭いもあるわよ」
「いや、手拭い云々の問題じゃなく」

「ほら行って!」

 強引に頭に手拭いを被せられて、どんと押される。その勢いで踊りの輪の中に入ってしまった。
「わ、ちょちょっと!」
「頑張ってねー」

 俺を散々振り回した猫はどこかに行ってしまった。おいおいおい、と思いながら辺りを見回すと、近くにいた猫がにやりと笑った。

「お困りだね?それだったら僕の真似をすればいいよ」

 そぉれちょちょいとちょいと、と不思議な掛け声で、その猫はわかりやすく振りを教えてくれる。親切な猫の気持ちを無駄にするわけにもいかず、俺は仕方がなく見よう見まねで踊り始めた。

「よっ、いいねぇ人間の兄ちゃん」
「かっこいいよ!」
「もうちっと背中を丸めて!」

 周りから飛んでくる声に、俺はだんだんと気分がよくなって、楽しさを感じ始めていた。

「あ!ちーちゃんだ!」

 そんな中、俺の名前を呼ぶ声に驚いて辺りを見回すと、青色の美しい浴衣を着た子猫がぴょんぴょんと飛び跳ねているのが見えた。
「ちーちゃん、ちーちゃん!」

 ぴょこぴょこやってきた姿に懐かしさを覚えて首をひねる。ちーちゃんという呼び方も、妹が俺を呼ぶ時の言葉だ。あの子は…いや、あの猫は俺の事を知っている?そして、俺もあの猫の事を知っている気がする…。

「お前は…」

 踊りをやめて、仔猫に近づくと、その猫はにゃっと声を上げて何故だか逃げ出してしまった。

「お、おい」

「おにーさーん!続きは?」

 子猫を追おうとすると、一緒に踊っていた猫たちが後ろから声を掛けてきた。
「ごめん、行かなくちゃ!」

 何故だかあの仔猫を追わねばならないと思った俺が声を掛けると、不満そうな声が上がる。
「ありがとう、楽しかったよ!また一緒に踊ろうな!」
「にゃー…」

 まだまだ納得してくれていなさそうだったけれど、付き合っている時間もなかったので、俺は本格的に走り出した。もうあの仔猫の後ろ姿は遠くなってしまっている。

「待てってば!」

 大声を上げながら走る俺を、祭りに興じている猫たちは避ける。俺はこれ幸いに全速力で走った。

 そしてだんだんと周りに人がいなくなり、祭りのにぎやかさも消えて行った。だいぶ仔猫との距離も近づいて、やっと手が届いた時には、人気の一切ない、祠の前に来ていた。

 先ほど祭りをしていた神社とは関わり合いの無いらしい、中に何やらわからないが、一体だけ仏像の納められているそれは、学校の近くにある祠に似ているような気がした。

「よ、よし、捕まえた。名を呼んでおいて、逃げるなんてずるいじゃないか」

 ぷるぷると震える猫には申し訳ない気もしたが、責めるような口調をどうしても抑えることができなかった。

「ごめんにゃさぁい」

 しおらしく謝る仔猫の顔を改めてよく見ると、道理で見覚えがあるはずだと納得する。
 それは、俺が飼っている猫…にゃんすけだった。

「にゃんすけ。お前、浴衣似合うなぁ」

 驚きのあまり、他にも言うことがあるだろうに、俺は的外れな感想を言ってしまった。それでもにゃんすけは嬉しそうに喉を鳴らすと、俺によく見えるように、その場でくるりとまわってみせた。

「かわいいかわいい」

 わしわしと頭をなでる。いろいろな猫を見てきたけれど、やはり自分の家の猫が一番かわいいな。

「あのね、ちーちゃんにね、お願いがあってここに呼んだの」
「ん?お願い?呼んだって、この夢はにゃんすけが見せているってこと?」
「そうだよ!新月の夜は僕みたいなちびっこでも、不思議なことを起こせるんだ!」

 ふんふんと得意げに鼻を鳴らすにゃんすけ。面白い夢だなと思いつつ、にゃんすけに合わせることにした。

「そっか。楽しい夢をありがとう。それでにゃんすけのお願いってなんだい?」
「あのね…」

 途端にもじもじとにゃんすけがうつむく。何を恥ずかしがっているのだろうか。

「ななちゃんばっかりじゃなくて、僕とももうちょっと遊んでほしいにゃぁって」

 どぎゅんと来た。かわいい。うちの子可愛い。

「ななちゃんと仲良しになってから、あんまり遊んでくれなくなったから、さみしくって。だから、お願いしたくて呼んだんだけど。恥ずかしくって逃げちゃった」

 わがままでごめんなさいと頭を下げる姿にいじらしさを感じて、何回もその頭を撫でてやった。

 思えば、初めてできた彼女に浮かれ、最近餌やりも母親に任せきりだったし、遊んでやってもいなかった。昔はにゃんすけの方が嫌がるくらい構っていたくせに。

 わがままは俺の方だな。

 自分に呆れつつ、にゃんすけをわしわしと撫で続けた。

「ごめんな。俺、反省したよ。にゃんすけ」
「にゃあ」

 甘えた声を出すにゃんすけに、自然と笑みがこぼれた。
夏場にふらりといなくなるにゃんすけはひょっとしたら、近所の祭りにでも行っていたのかもしれない。そして、そのにぎやかさを夢見ることでさみしさを埋めようとしていたのかもしれない。

 だとしたら、この夢の面白さは、にゃんすけの淋しさの裏返しなのだろう。変な屋台も、恥ずかしい踊りも、種族にうるさい猫たちも。

 悪かったな…。

「にゃんすけ」
「うにゃぁ」
「にゃんすけ?」
「にー…」
「あれ?」

 いつの間にか、目が覚めていた。呼びかけるとにゃんすけが応えるということは…。
 バッと身を起こす。驚いたようににゃんすけが飛んで逃げて行った。

「あ…。逃げられた。また」

 ふと、笑みがこぼれる。夢だったけれど、にゃんすけにかまっていなかったのは事実だ。時計を見ると、起きるまでにまだ時間がある。

「にゃんすけー?遊ぼうぜ」

 俺はにゃんすけの逃げて行った方へゆっくりと歩いて行った。
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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

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紫矢 陽炎

Author:紫矢 陽炎
紫矢陽炎と申します。
こどもがたくさんいる職場に無事転職しましたー!
読書、ギターを弾くのが趣味です。

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